distortion
第2部

苦悩

そんなに自分らは「売れないアーティスト」なんだろうか?




「福ちゃん……?話聞いてる?」


薫ちゃんが可愛い目をクリクリさせて俺の顔を覗き込む。


「ん?ああ。大丈夫だよ。少し考え事してただけ」


薫ちゃんを心配させないように笑顔を作る。


「そっか、良かった。最近元気ないみたいだから心配してたよ」


コイツはいつもそうだ。
誰にでも優しい。


俺も俺で人の事は言えないけど、コイツは更に輪をかけて人に優しすぎる。


中にはその優しさにつけ込んで薫ちゃんに近づこうとする輩もいるけど……。


アイツだ。

最近売れまくりの2人組デュオの片割れ。

全然自分らの立場をわきまえてない。


お前らはアイドルか?
なんか違うんじゃない?

クラスの中で自分だけ選ばれて天狗になってる奴みたい。



まるで子供




他人のアーティストにケチをつける訳ではないが、あんな不誠実な奴に薫ちゃんを狙われるのはごめんだ。


嫉妬………


なんだかね、自分でもこんな嫉妬は嫌になる。


出来れば恨みたくなんてなかったよ。

ちょっと前までは同じ立場で苦楽も共に味わった仲だったのに。



人間の変わり身の恐ろしさを身近に実感した。


人はこんなにも良くにも悪くにも変わってしまう。



そんな事を思ったら少し悲しくなったんだ。

それと同時に自分の中の黒い感情がふつふつ湧き出してもくる。



お願いだから
薫ちゃんには近づかないで 。


俺らの事なんて見下しても忘れてもいいよ。








「薫ちゃん、いる?」

一応ノックはしたがこっが声をかける前にドアは勝手に開いた。



「薫ちゃん、出番これから?」


「あっ、うん。今日はメガネなの?」

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