distortion
福ちゃんは愛してるも好きも両方言ってくれる。


「ねぇ、薫ちゃん。今度の週末空いてる?」


金曜日の夜、収録後に福ちゃんが誘ってきた。


「………あっ、うん」


「どしたの」



週末は……まーくんに誘われてる。
ほんの15分前にメールが来たばかり。



福ちゃんは最近音楽活動とは別に音楽雑誌の執筆の方があって比較的活動のない日でも忙しい。


だから遠慮して俺からは誘わなかった。

福ちゃんの新しい才能。
俺は潰したくない。


音楽だっていつまでも出来る訳ではない。
新しい才能ある新人が沢山いるし、正直な話俺らはこの辺りでそろそろ停滞なのかもしれないと。


決してやる気がない訳ではない。



でも、たいしてデビュー年が変わらないまーくん達のサンドラが売れた今、俺達にはもう何か奇跡が起きない限りは無理じゃないかと。


だからこそ、福ちゃんには新しい可能性に向かって頑張って欲しい。



それまでは俺も付き合うから。



「ごめんね。週末は用事があるんだよ」

「そっか。一緒に飲みに行きたかったんだけどな。新宿にさ、新しく出来たワインバーが出来たから」


「ん。ごめんね」
上手く福ちゃんの顔が見れない。

何だか後ろめたい気分だ。



でもこれも皆
俺が招いた罪


許されない







「どうしたの?上の空みたいな顔してさ」


目の前にまーくんの顔のアップ。
メガネをかけた顔がちょっとサドっぽい。



外は雨の音が止まずにリズム良く響いている。

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