distortion
「確かに、俺も最初は武蔵のマネやってた関連から入ったさ。それは認めるよ。でもアイツは?もし食いっぱぐれたって親も兄貴も助けてくれるじゃねえかっ!」


「落ち着いて、ね。福ちゃんだってそれは凄く気にしてるんだよ。生まれてこなきゃ良かったって悩んでたんだよ。でもそれでも福ちゃんは福ちゃんなりに自分でやってきたんだよ…」


そう。
福ちゃんはいつも笑っているけど、いつも俺が見てない所で泣いていたのを知ってる。

でも、弱い俺はそんな福ちゃんをただ見ているだけしか出来なかった。

いつも優しい福ちゃん。
俺はどうしたらいい?
あなたに何をしてあげられる?


「んで?帰る訳」


「今日はごめん、福ちゃんが心配だから帰る」


「はぁ?ふざけんなよ」


「まーくん?」


まーくんは怒ったように傍にあった空のペットボトルを俺に投げつけた。


「帰れよ。もういい、お前とはもう口聞かない」


「ちょっと待って、どうして?まーくん?」


どうして?
何をそんなに怒るの?
帰れなんて、口を聞かないなんてそんな怖い言葉言わないでよ。


「ごめん…ね。そんなに邪魔だったら帰るよ」


俺は重い足取りで玄関に行こうとした。

「行くなよ」


「まーくん…なん…で?俺どうしたら…」


まーくんは腕を強い力で握ってくる。
力関係で言ったら俺の方が強いんだから振り解けばいいのに振り解けない。


「ごめん。また来るから」


「嫌だ。帰るならお前とは絶交だし」


「どうしたの?まーくん、おかしいよ…」


「嫌だ!行くなよっ、行くな行くな行くな!」


まーくんは怒鳴りながら床に手を付くようにしてうずくまった。



はぁはぁはぁはぁ…


息苦しそうな呼吸音。

過呼吸だ……。

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