distortion

武蔵

初めて着いて行ったオーディションは最悪最低。


よくもまあ永沼武蔵はあれで事務所に引っかかったなって逆に関心させられた。

オーディションは各事務所の新人とインディーズが出るライブのネタ見せである。


俺以外にもマネらしき人間がまだ右も左もわからないような10代に見えるミュージシャンと一緒にいるのを見た。

ライブのオーディション自体興味はあったからとりあえず廊下に並んでいた椅子の近くに立って聞き耳を立てて聞いていた。




「音楽興味ある?」

武蔵が唐突に聞いてきた。


「まあ。マネージャーやるなら知らないとヤバいかなって」


「音楽番組とかはテレビで見る?」


「んー、テレビはあんまり見ないし見たとしても流しっぱだから…」


小声でひそひそと話をする俺達。

他のミュージシャンらは椅子に座りながら必死に相手やメンバーと小声で打ち合わせをしているみたいだった。


武蔵は緊張してないのか余裕そうに見える。



「あと一組?」


「みたいですね」


「じゃあ、呼ばれたら行くんで待っててね…」


「頑張って」



「13番の永沼武蔵さん、どうぞお入り下さい」



「はい」



ドアの前に立った武蔵の背中はやはり『ミュージシャン』らしかった。






と…思った。








「……歌詞忘れた…ね」


「すいません…」


オーディション見せは散々だった。

良かったのは最初の「よろしくお願いします」の挨拶だけ。
後は歌詞は忘れる、声は小さい、リズムは悪いで逆に聞いてるこっちが耳を塞いでしまう位である。


これほどまでに酷いとは……。


どうすんだよ!おい!



これをどうマネージャーとして支えてやればいいんだよ!?


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