幸せそうな微笑み
「…神宮聡
(カミミヤ アキ)君…」


彼女は大きく目を見開き、
柔らかい声で俺の名を紡いだ。


「どーして…泣いてるの」


彼女に言われて目を擦ると確かに水。


「…あぁ、俺…泣いてたんだ。
君のピアノに感動したから、かな」


「聞いてたの」


「準備室に寝に来たら、ね。
ねぇもう一度何か聴かせて。
君のピアノもっと聴きたいんだ」


「良いけど…何が良い?」


「ショパンが良いな」


「英雄ポロネーズ
(ポロネーズ第6番変イ長調 作品53)
で良いかな」


「あぁ」


彼女が優しい笑みを浮かべながら
弾き始める。


懐かしい、この曲…。


聴かないもんな、今じゃ。





「ありがとう。君、上手だね」


「ありがとう。ただの趣味なんだけどね」


「ピアノがすきなんだな。幸せそうだった」


「うん、大好き。
音を奏でることって楽しいから」





同じことを言っていた。



音を奏でることは楽しい、と。
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