夏の桜

　俺はその日夢を見た。ハクと俺が森で遊んでる、夏休み頃のような夢だ。
　夢の中のハクは、最後に見た時よりも更に小さい。
　夢の中でハクは俺と話をしていた。
　ハクの声は思っていたよりも高くて、いかにも女の子といった感じの声だった。
　ハクはたくさん話を聞かせてくれた。昔の頃の話や、俺のこと。すごく楽しそうに話していた。
　その中で、ハクは変なことを言っていた。
「ハクは駆の家の桜の木なんだ。」
　随分おかしな事を言うな、そう思った。「あの桜の木は死んじゃうの。ハクがもうダメだから、あの木も死んじゃうの。そしてハクはこのまま小さくなって消えちゃうの」
　バカだな、って言おうとした。でも声が出なかった。
　驚いている俺を見て、ハクがクスッと笑った。
「だからハクが消えちゃう前に駆と遊びたかった。お話したかったの」
　俺は黙ってハクを見ている。
「ハクと一緒にいる時間はすごく楽しかった。木の中から駆のことを眺めているのよりずうっと楽しかった」
　その後、ハクは小さな体で俺に抱きついて、しゃがんでいる俺の耳元で呟いた。
　―大好きだよ、駆