夏の桜
 「駆!ちょっとお隣にスイカ届けてきて!」
 台所から祖母が呼んだ。
 俺はダルく返事をすると、大きなスイカを手に、お隣へと向かった。
「あっつい」
 一歩外へ出ると、家の中の涼しさとは打って変わって、先ほどの溶けそうな暑さがまだ残っていた。
 家の前を過ぎるとまたあの女性がいた。 俺はチラッと見るだけで女性の前を通り過ぎて、お隣の戸を叩いた。
「いつもありがとうね」
「いえ」
 俺はスイカを手渡して、お隣の家を出た。ふと、さっきの女性がいた所を見ると、女性はまだそこにいて、うちの庭に植えてある桜の木を見上げていた。
 その木は年々花が咲かなくなってきていて、祖父曰わく、もうそろそろ駄目らしい。
 女性は悲しむようでも、嬉しそうでもなく、無表情でただ木を見上げていた。
「あの……」
 恐る恐る声をかけると、女性は一瞬ビクッと体を震わせ、俺を見た。どうやら俺に気付いていなかったらしい。
 女性は声をかけたのが俺だとわかると、嬉しそうに微笑んだ。
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