夏の桜
 俺は、ハクの小さな囁きと同時に目が覚めた。
「……病んでるな、俺……」
 のそのそとベッドから出て、いつものように縁側に出た。
「何だ……これ」
 ふと顔を上げて驚いた。
 庭の桜の木が幹から折れていた。
「ああ、それね。母さんも朝起きてびっくりしたよ。でも、まあここ何年もちらほらとしか咲いてなかったからね。寿命だったのかね」
 母さんは落ち着いて話している。
「……ハク」
 俺は、寝起きのジャージの格好のまま、サンダルを引っ掛けて、走った。
 川や森、学校まで探しに行った。
「ハク!」
 きっと端から見たら、寝ぐせにジャージで、朝から大声出して走り回って、変な奴に見えたかもしれない。
 でも人の目なんてどうでもよかった。ただハクさえ見つかればそれで良かった。
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