わたくしの日々
さっとアルコールの染みた脱脂綿を腕に塗り、すっと針を皮膚に押し当て貫き、血管を捕らえて、くっと血を抜く。
この作業の痛くないこと!
流れるような動作は「職人」であった。
わたくしは私服というだけでおばちゃんを、否、先生を疑ったことを恥じずにいられなかった。
その後も先生の作業は止まることなく進んで行き、採血した血液を試験管に入った何らかの液と混ぜていた。
先生の手早さに見蕩れていると、注射器の中に血液が残っているのに気付く。
そして次の瞬間。
先生は、否、スーパードクターは我々常人には理解しがたい行動に出た。
ぴゅー
残った血液は洗面に流された。
えぇ!?
皆様は自分の血が排水に捨てられた経験はあるだろうか?
勿論わたくしはない。
そりゃ「取り過ぎましたスイマセン」なんて言われて血管に戻されても困るのだけれど。
暫く呆然としていると、スーパードクターは早く出て行きなさいとばかりに次の人の名前を呼んだ。
その意味を察し、一礼して部屋を出た。
すれ違いに入った男性は、40歳台の線の細そうなサラリーマン風な人だった。
彼の身と血を案じつつ、わたくしはシャンプーハットを装着する部分から体温が下がって行くのを感じていたのだった。