【短編】あたしとバカと自縛霊
「ごめん」


也久が言った。


懺悔めいた、独白。


あたしに言ったのか、はたまた不可視の想い人か、あたしには知る由もない。


也久は胸倉を掴むあたしの指を一本一本丁寧に剥がし、最後の一本が剥がされた瞬間、支えを失ったあたしはその場にへたり込むしかなかった。


行き場を失ったあたしの激情は、か細い脆弱な哀嘆へと変質した。


「也久……。どこに、行くの…?」


也久はあたしに背を向け転落防止のフェンスへと歩み寄る。
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