俺様の飼い猫。

洗面所の鏡に映るのは、まだ寝癖つきっぱで目の半分しか開いていないあたしの情けない顔。
とりあえず、くずれかけたメイクを直しておく。
まるで自分の家のように過ごしていることが、何だかおもしろくて心の中で笑えてきた。
バスルームを探して、それらしきドアを開けてみれば、ホテルのスイートルームのような光景が広がっていた。
脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入る。
シャワーを浴びながら、ふと考えた…
あたし…ずいぶんかっこいい人の家でシャワー浴びてんなー。
さっき寝起きに見ただけだけど、まじで綺麗な顔してた。
サラサラの肩につくくらいの黒髪。
切れ長の目。
薄く整った唇。
去り際に頭を撫でてくれた時に、さりげなく鼻をくすぐった香水の匂い。
思い出したら恥ずかしくなってきた。
まじかっこよかった…。

「帰って来るまで待ってなきゃいけないんだ…。」

全てを終えて浴室から出ると、時計の針はすでに１２時過ぎを指していた。
なんとなく、お腹が空かなくて、あたしはとりあえず、机の上にあったお金には手を付けず、家を出ようとした。
けど、財布の中を見たら給料日前なのと、銀行に行ってないせいで空っぽに近かった。
悔しかったけど、あたしは仕方なくお金を借りることにした。

後でちゃんと返そう。

適当にそんなことを思って玄関に無造作に置かれた鍵を持って家を出た。
近くには、コンビニもあって、１０分ほどボーっと歩いていると、御堂さんか言った通り、最近出来たばかりのショッピングモールがあった。
初めて来たその場所は、まさにあたし好みのテナントや雑貨屋さんが多かった。
でも、実際あたしが来たのは楽しく買い物するためじゃなくて、夕食の材料を買うため。
さっき、家を出る前に冷蔵庫を開けてみたら、ほとんど中は空っぽで、数本の栄養ドリンクと卵が入っていただけだった。
すぐ横の戸棚には、カップラーメンが目につくほどあった。
どうせ、そんな人のことだから、ご飯なんてろくなもん食べてないだろうなって…。
ちょっと可愛いことするじゃんあたし！？
まぁ、漫画の読みすぎなんだけどね。
そう決めたものの、何を作っていいかわかんない。
ふと、朝来ていたメールを返してないことに気付いた。
どうせなら、どんなものがいいか聞いてみようと、あたしはケータイを開いた。