不良
雨漏り
雨漏りが酷い。天井からじわり、ポツンと顔に向けて雨漏りがしてくる。
雨漏りの音がひびくと、申し訳ない気になる。階下の奥の部屋で寝ている母親のことである。
大城春男は父親が建てた築三十年の古家に母親と二人で暮らしている。「どないかせんとあかんぞ。」と思い、階下で寝ている母親を不憫に思った。
しかし春男は定職もない身であり、加えてこの家のやっかい者である。四十の独身であるが、いまだに生活費二万円を一度も入れられなかった。
母親の機嫌の良いときに、部屋を盗むようにして、舞い戻った。その部屋はあいにく、雨漏りがした。それでも、この三ヵ月は転々と暮らしてきたホテル代が不要であった。
春男はチンピラのできそこないで、何処の組へ行っても相手にされなかった。たまに昔の顔見知りに、「遊びにこいや。」と誘われ、真顔になって訪ねると、「なにしにきやがつた。」という顔つきで、早々に追い返されても、文句一ついえなかった。
母親の口癖は、「何とかせんかい!」であり、何かというと東京で成功した暮らしをする兄貴のことを引き合いに出しては、春男の体たらくのことを責めた。
「それやったら、兄貴に天井をなおさせたらええねん。金を送って貰ったらええねん。」 と春男は母親が愚痴る天井の修理のことを弁解した。
「あほ! そんな恰好の悪い頼みが出来るかいな。お前が稼いでなおしたらええねん。それぐらいのことをせんかいな。そうせんと、罰当たりやで。」
母親は春男の弱い精神を「粉々になれ。」とばかり、責めに責めた。
「あほんだら。都合が悪なったら、ダンマリかい。くそったれのあほめが。」
とまたもや、母親は春男の喉元にドスのような言葉を突きつけた。