不良
 二人は普段着にサンダル履きの恰好で地下鉄に乗った。地下鉄天王寺駅で乗り換えると御堂筋線の動物園駅へ向かった。駅では、五、六人の家族連れが一緒になっておりた。もう時刻は午後の二時だった。

 大きなパチンコ屋を左折すると、異様な臭いがしてきた。向こうにみえる古着屋にたむろする労務者の臭いか、それともその先にあるたこ焼き屋の臭いか、果して、公衆便所のせいなのか。理恵は鼻をつまむようにして、「早く、早く」と春男を手招きした。

 ガードを抜けると商店街のてんぷら屋からは、安物の油の臭いがしてきた。飲食店特有のなにか入り交じったような臭いである。二人の目的の店は、昼間の中途半端な時間なのに二十人ほどが並んでいた。串カツ屋の中をのぞくと、白い調理服を着た太った連中がなにかしら、勝ち誇ったような顔つきで路上に並んでいる客をみていた。

「もっとええとこがあるねん。」春男はそういうと、理恵の腕をとった。理恵は春男のうしろに従った。やがて、路地裏にでた。「汚いやん。」と理恵は入店を拒んだ。「アホやなあ、こんなとこがええんや。」「それでも、汚いとこはイヤや。」と理恵は抵抗した。
 結局、理恵に遠慮のある春男が折れて、引き下がることにした。「ほんだら、そこのスタンドで生ビールでもやろか。」と春男が提案した。二人にとっては、これから遅い昼食になる予定であった。理恵はジロジロとスタンドをみわたしたが、反対する理由もみつからないので、ドアをあけて中に入った。すると、五、六人の先客がジロリとみてきた。

「感じわるい。」と理恵は口にしながら、マスターに手招きされた椅子に座った。「しい。しい。」と春男はひとさし指を口にあてた。二人はまず生ビールで乾杯した。「マスター辛いほうのキムチを。」と春男が白髭白髪のマスターにオーダーした。

「焼きそばできます。」と理恵がきいた。「キムチ入りでっせ。」とマスターが答えた。「ちょっと甘いのと。」と春男がだされたキュウリに注文をつけた。「丁度ええがな。」と横のアベックの男が、春男をにらんできた。マスターは二人の仲をとりもった。



< 12 / 37 >

この作品をシェア

pagetop