不良
 やがてマスターの作った焼きそばが皿にもられて、カウンターの上に置かれた。
 春男は手をのばして、皿を理恵の胸の前へ運んでやった。焼きそばの色目は真っ赤に近かった。「これって、イヤがらせかいな。」と理恵は感じてイヤな気がしてきた。

「うち、こんなんいらん。」と店内に響くようにいった。カウンターの連中が一斉に理恵をみた。マスターは「なんやて。」というと、いきり立った。「いらんかったら、帰れちゅうねん。ボケくそめが。」とバシャと音高く洗い桶の水をシンクにこぼした。

 春男は気まずくなった。そして生ビールばかりを立て続けに飲んだ。理恵は「こんな感じの悪い店は早くひきあげるにかぎるぞ。」と帰ることばかりを思っていた。春男は理恵の雰囲気から、「帰りたがってる。」と感じた。しかし、いまはまだ帰れなかった。
                                         カウンターの焼きそばは少しずつ冷えてきた。麺は徐々に固まりつつあった。春男は箸で麺をほぐすと、口にほうばった。そしてモグモグと食欲をみせて食った。生ビールで流し込む感じで、アッという間に平らげた。理恵はそれをみて、ただあきれるばかりだった
 マスターの機嫌がなおり、カウンターの連中にも笑みがもどってきた。そして彼らは勝手なことを喋りだした。マスターも平常に戻ったらしく、洗い物に精をだしていた。春男は周囲が元に戻ったことを嬉しくおもい、生二杯をおかわりした。

「なにが甘いのん。」と突然、理恵が春男にきいた。「ぶりかえすんか。」と思い、春男は警戒した。「ええやん、ええやん。」と理恵が春男の腕をゆすった。
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