不良
理恵はだされた湯飲みをチラッとみた。春男は茶碗に手をのばすと、躊躇なくすすった。「これ、わてが漬けましたんや。お口にあいませんやろな。」と卑下しながら、母親はキュウリのキムチの鉢を押してすすめた。
春男は小学生のようにはしゃいで、手をのばすと、赤く染まったキュウリを口にした。そして飲み込むと、「おかん。ちょっと甘いのとちゃうか。」と自分の横に座った母親にそういった。「甘いか。」母親は口をとがらせていった。「かめへんけどな。」春男は母親の機嫌が悪くなることを恐れるようにしていった。
クーラーはどの部屋にもないらしい。母親が居間のほうから抱えてきた扇風機は、十年は前の型である。母親は理恵のほうへ団扇で風を送りつけ、上客扱いをする。「えらい、お世話になってるのとちゃいますか。」と理恵へ母親が遠慮がちにきいた。
理恵は母親の口からもニンニクの臭いがただよってくるのを感じた。<臭い。>と露骨に顔をゆがめる。「キムチはお嫌いでっか。」と母親が畳みかけてきた。理恵は湯飲みにも口をつけないし、キムチに目も向けなかった。
「おかん、これ。」春男は裸の札を母親の前に置いた。母親は札の置かれたのをみて、ニヤッとなった。「かめへんのん。こんなぎょうさん。」母親は札に手をのばして、そのまま手元に引き寄せると、数えるような仕種をしてきいた。
「ちょっと、待っててな。」母親は立ち上がると、あわてた様子で玄関に向かった。「おい。何処へ行くんや。」春男が母親の背中へ声をかけた。母親は春男のほうをみて、「待っててな。」と再びいった。そしてサンダルを履くと、飛ぶようにして表の道へでた。
「お母さん、何処へ行きはったん。」「さあなあ、急いでたな。」春男はそう理恵に答えると、理恵の横顔をみた。「おおきに、おおきに。おまえのお蔭やで。母親に親孝行の真似ができたんわ。ほんまに感謝してるで。」春男はそういうと、理恵の手を握った。「暑苦しい。」というと、手を払いのけて理恵は怒った顔をみせた。
春男は小学生のようにはしゃいで、手をのばすと、赤く染まったキュウリを口にした。そして飲み込むと、「おかん。ちょっと甘いのとちゃうか。」と自分の横に座った母親にそういった。「甘いか。」母親は口をとがらせていった。「かめへんけどな。」春男は母親の機嫌が悪くなることを恐れるようにしていった。
クーラーはどの部屋にもないらしい。母親が居間のほうから抱えてきた扇風機は、十年は前の型である。母親は理恵のほうへ団扇で風を送りつけ、上客扱いをする。「えらい、お世話になってるのとちゃいますか。」と理恵へ母親が遠慮がちにきいた。
理恵は母親の口からもニンニクの臭いがただよってくるのを感じた。<臭い。>と露骨に顔をゆがめる。「キムチはお嫌いでっか。」と母親が畳みかけてきた。理恵は湯飲みにも口をつけないし、キムチに目も向けなかった。
「おかん、これ。」春男は裸の札を母親の前に置いた。母親は札の置かれたのをみて、ニヤッとなった。「かめへんのん。こんなぎょうさん。」母親は札に手をのばして、そのまま手元に引き寄せると、数えるような仕種をしてきいた。
「ちょっと、待っててな。」母親は立ち上がると、あわてた様子で玄関に向かった。「おい。何処へ行くんや。」春男が母親の背中へ声をかけた。母親は春男のほうをみて、「待っててな。」と再びいった。そしてサンダルを履くと、飛ぶようにして表の道へでた。
「お母さん、何処へ行きはったん。」「さあなあ、急いでたな。」春男はそう理恵に答えると、理恵の横顔をみた。「おおきに、おおきに。おまえのお蔭やで。母親に親孝行の真似ができたんわ。ほんまに感謝してるで。」春男はそういうと、理恵の手を握った。「暑苦しい。」というと、手を払いのけて理恵は怒った顔をみせた。