不良
「ほんで、どうしたいねんな。」バイト先の主人から春男は、これから先のしたいことをきかれた。「腹が立ちますねん。」といい、不貞腐れたような素振りをした。「アホかいな、お前は。子供みたいなことをいうて、どないするねんな。」春男は頭ごなしにそういわれて、意気消沈した。そして吹きでてくる大粒の汗を首に巻き付けてるタオルで拭いた
マンション管理人から小馬鹿にされつつ、春男はバイト先の主人に電話で指示されたとおりに、マンションの住所をメモした。そして、夕方まで繁華街で時間を潰したのち、バイト先へやってきたのだった。

バイト先の事務所はスチール製の事務机が一つの小さくて、暑い部屋だった。そこに、春男より二十は上の超肥満体の主人が座っている。団扇で顔のあたりをあおぐが、なんの役にも立たないようだった。主人は春男に、「住所はわかったんかいな。」ときいてきた。
春男が住所を書いたメモを手渡すと、主人は玉のような汗を額にかきながら住所の文字をキッとみつめた。「調べたるがな。こんなもん、ちょろい、ちょろい。おれの知ってる探偵社の先生に頼んでやる。心配せんかて、探偵料はおれ持ちや。」主人はそう励ますと、春男の頭を手のひらで押さえた。

春男は地下鉄動物園前駅近くの安宿をねぐらに、夜の二時間をバイトした。昼間はカラオケ仲間と集い、時間を潰した。仲間は理恵の死を知っているが、春男に気づかい、詳しいことはなにもきかなかった。

午後三時に携帯へ連絡がきたので、春男はいつもより二時間早くバイト先へ行った。狭い事務所には、主人が座り、総髪の男が立っていた。総髪の男は主人と同年齢らしい。春男よりは、二十ほど年長である。「紹介しとく、隠岐先生や。」「探偵?」春男は口ごもってきいた。「そうや、腕利きの探偵さんや。元警察官やぞ。」と紹介を受けた。

三人連れ立って、近くの喫茶店に入った。そこで春男は理恵とのことを一気に語った。

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