不良
 春男は地下鉄の改札をとおった。向こうに中学時代の同級生が立っているのをみた。
その男は元やくざで、二つ名を持っていた。それは「天下のサブ」という通り名だった。 
 サブの右手小指は第一間接から吹っとんでいた。若いころ、親分の女にちょっかいをだし本来なら二つに重ねられて、真っ二つにされるところを、女も助かり、サブも小指の切断だけで助かった。

「おう。何処行きや。」
 とサブのほうから春男に向かってきた。
「やぼ用やねん。」
 春男もバイトに行くとは、とても恥ずかしくていえなかった。

 二人は大阪市営地下鉄四橋線に乗り、座席で少し喋った。
「どうやねん。最近、しのぎのほうは。」
 サブは春男のほうを向き、「どんな答えをさらしよるねんやろ。」とヘビのような目をして、期待をもったような顔できいてきた。

「あかんわ。さっぱりやな。」
 春男はバイトのことは伏せて、やくざのしのぎの話のようにしてきかせた。
「そうやろ。わしもあかんわ。」
 サブは春男のいうことに、おおきくうなずいていった。

 やがて二人は大国町駅に着いた。時刻は午後四時半になろうとしていた。
「ほんなら。わし、こっちやから。」
 サブはそういうと、春男を置いて階段のほうへ走った。

 春男はサブの背中を見送った。「へん。ボケめが。えらそうにさらしやがって。おのれの時代はもう済んだんじゃ。家へ戻って、寝とけ。」と、中学時代に馬乗りになられたことのあるサブのことを憎く思っていた。


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