不良
法務士の男が提案した。「役場も近いよって、交通費も不要ですわ。まあ、数千円の請求で済みますやろ。」「全部でですか。」と探偵が膝を乗り出した。「違いますよ」法務士は目を丸くして身構えた。「うちの事務所で数千円で済む仕事はおまへんで。」というと壁に掲げてある価格一覧表の数字を指さした。春男は数字らしいのをみつめるが、「字が小さい。」と独り言のように否定した。
数日が経過した。春男は昼間カラオケ仲間と過ごし、夕方は二時間だけのバイトをした。その日の正午。探偵と法務士の事務所で落ち合った。「取れましたで。」と法務士はテーブルに住民票と戸籍を並べた。「大したもんや。おれらが逆立ちしても取れんかったのになあ。」と探偵はそういうと、横の春男をみつめた。
「これで相手の正体と居場所とがわかりました。相続人は三人でした。そやから、近くの一人を先ず訴えまひょか。」法務士は専門家らしく、ツツと事を進めてきた。探偵や春男に否やはない。その知識さえなかった。「先生。よろしくお願いします。」と深々と頭を下げることしか二人には出来なかった。
次の朝十時。春男は探偵と連れ立って法務士の事務所を訪れた。法務士は黒い手提げ鞄に書類を入れてでてきた。三人は徒歩三分の大阪裁判所へ向かった。いかめしい顔つきの警備員が腰に両手を当てた恰好で三人を睨み付ける。法務士のほうから会釈する。すると、警備員がニヤッとなって、軽く手をあげて敬礼してきた。
「地下で印紙買ってきますわ。あんたら、ここに座って待っててな。」法務士はそういうと手慣れた感じで階段を地下へ向かった。「先生。書類読ませて貰ってないですけど、かまいませんか。」と春男は一抹の不安を探偵にぶつけてみた。「しゃーないやん。読んでもわかるか。お前かてわからんやろが。」というと、探偵は不貞腐れた表情をした。
「お待たせ。ほな、行きまひょか。」法務士は手提げ鞄の腹を平手でポンポンと打った。連れて行かれたのは、白っぽい部屋の大阪簡易裁判所の受付だった。法務士は「お願いします。」というと、鞄から用紙を取り出して、係員の女性をカウンターへ呼んだ。
数日が経過した。春男は昼間カラオケ仲間と過ごし、夕方は二時間だけのバイトをした。その日の正午。探偵と法務士の事務所で落ち合った。「取れましたで。」と法務士はテーブルに住民票と戸籍を並べた。「大したもんや。おれらが逆立ちしても取れんかったのになあ。」と探偵はそういうと、横の春男をみつめた。
「これで相手の正体と居場所とがわかりました。相続人は三人でした。そやから、近くの一人を先ず訴えまひょか。」法務士は専門家らしく、ツツと事を進めてきた。探偵や春男に否やはない。その知識さえなかった。「先生。よろしくお願いします。」と深々と頭を下げることしか二人には出来なかった。
次の朝十時。春男は探偵と連れ立って法務士の事務所を訪れた。法務士は黒い手提げ鞄に書類を入れてでてきた。三人は徒歩三分の大阪裁判所へ向かった。いかめしい顔つきの警備員が腰に両手を当てた恰好で三人を睨み付ける。法務士のほうから会釈する。すると、警備員がニヤッとなって、軽く手をあげて敬礼してきた。
「地下で印紙買ってきますわ。あんたら、ここに座って待っててな。」法務士はそういうと手慣れた感じで階段を地下へ向かった。「先生。書類読ませて貰ってないですけど、かまいませんか。」と春男は一抹の不安を探偵にぶつけてみた。「しゃーないやん。読んでもわかるか。お前かてわからんやろが。」というと、探偵は不貞腐れた表情をした。
「お待たせ。ほな、行きまひょか。」法務士は手提げ鞄の腹を平手でポンポンと打った。連れて行かれたのは、白っぽい部屋の大阪簡易裁判所の受付だった。法務士は「お願いします。」というと、鞄から用紙を取り出して、係員の女性をカウンターへ呼んだ。