不良
裁判は瞬く間に終わった。春男は終わったことを知らされず、また知ることを得ず、原告席にいつまでも座っていた。やってきた係員が追いだすようにして、原告席から春男を立たせて、傍聴席のほうへ追い払った。

「なんや。あのアホ裁判官。終わりやったら、終わりといわんかい。」と春男は腹立ちまぎれに、廊下の椅子を足蹴にした。「ほんまやのう、不親切な奴らやで。」探偵はそういうと、春男の肩に手を置いた。

「喫茶でも行くか。」と探偵が声をかけた。三人はエレベーターに乗り込み、地下の喫茶室へ向かった。「先生。次回期日のことで、うっかり返事しましたけど。」「かめへん、かめへん。また月曜日の十時や。」と法務士は奢ってもらえると算段しているのか、探偵のほうに、あれこれとサービスした。

「そやけど、けったいな弁護士でしたな。差し支えます。差し支えます。都合がありますとかなんとか、なんべんもいいましたな。」春男は興奮がさめない感じでいった。

「先生。次回になにか用意するものでもありますか。」と春男は法務士にきいた。法務士は探偵と春男の二人を交互にみて、「なにも用意はありません。」とキッパリ返事した。
喫茶室のあと、法務士の事務所へ立ち寄り、用件を済ませた。春男と探偵の二人は帰途についた。大川の川風が吹き上げてきて、心地よかった。地下鉄淀屋橋駅から十分ほど乗って動物園前駅でおりた。

「早いけど、うどん一杯食って行こう。」探偵はそういうと、道路を渡り、商店街のほうに向かった。春男はその背中を追っかけた。青地の暖簾に「うどん」と白文字で染め抜いた店に入った。立ち食いうどんの店である。探偵はかけうどんを二杯頼んだ。春男はきつねうどんを一杯頼んだ。「二杯とは驚きまんな。」と春男は探偵の食欲に感嘆した。

                                        
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