不良
春男はしばらく疎遠になっている母親を訪ねてみた。その日は余所行きの服を着た。一張羅の上着を羽織ってみた。春男は法務士の事務所から失敬してきた、法務士バッジを襟元に着けた。金色に輝くバッジは、歩く人を驚かした。
立て付けの悪い戸をガタタと開ける。「おかん。おらんのかいな。」春男は怒ったような声をだした。廊下の奥のほうで物音がし、人の気配が伝わってきた。「なんや、おるんやったら、はやくでてこい。」と春男はひとりつぶやいた。
ペタペタと足音をさせて、母親が近寄ってきた。母親は春男の身形をみて、「なんやねんな、その恰好は。」と厭味を吐いた。春男はムッとした顔つきになると、「久しぶりに帰ってきたら、そんな調子かいな。」とやり返そうとした。「アホ。おまえなんか勝手に帰ってくるなちゅうねん。」母親は罵声を浴びせた。二人の声は表通りにまで響いていた。
「どないしてんな。」春男は心臓が止まるかと思った。そして深呼吸して、息を整えた。「ポリや、ポリが何人もきたぞ。刑事もや、近所に恥さらしなことをしやがって。」というと母親は汚いタオルで目をおさえた。春男は靴を脱ぐこともできず、たたずんでいた。
それでも母親は春男を受け入れた。口では帰れといっても、身を引いて、春男が座敷にあがりやすくしてやっていた。「上がってもかめへんか。」「しゃーないな。」母親はそういうと、廊下を台所に向かった。
春男は座卓の前に畏まって座った。しばらくして、母親はキュウリのキムチとお茶を持ってきた。「遠慮せんと食べ。」母親は春男の食生活を気づかった。春男は二口、三口を食べると、「ちょっと甘いか。」と作った母親に味付けをきいた。「そんなことあれへんがな。」と母親は顔を歪めると春男の味覚が衰えていることを指摘した。
「おかん。醤油貸してえな。」「醤油なんて、いらんて。」母親は不承不承で席を立ったしばらくして、台所から醤油入れを持ってきた。春男はキムチに醤油を回しかけた。「お前。口が変わってしまったんや。」と母親は醤油でキムチを汚されたように思っていた。
立て付けの悪い戸をガタタと開ける。「おかん。おらんのかいな。」春男は怒ったような声をだした。廊下の奥のほうで物音がし、人の気配が伝わってきた。「なんや、おるんやったら、はやくでてこい。」と春男はひとりつぶやいた。
ペタペタと足音をさせて、母親が近寄ってきた。母親は春男の身形をみて、「なんやねんな、その恰好は。」と厭味を吐いた。春男はムッとした顔つきになると、「久しぶりに帰ってきたら、そんな調子かいな。」とやり返そうとした。「アホ。おまえなんか勝手に帰ってくるなちゅうねん。」母親は罵声を浴びせた。二人の声は表通りにまで響いていた。
「どないしてんな。」春男は心臓が止まるかと思った。そして深呼吸して、息を整えた。「ポリや、ポリが何人もきたぞ。刑事もや、近所に恥さらしなことをしやがって。」というと母親は汚いタオルで目をおさえた。春男は靴を脱ぐこともできず、たたずんでいた。
それでも母親は春男を受け入れた。口では帰れといっても、身を引いて、春男が座敷にあがりやすくしてやっていた。「上がってもかめへんか。」「しゃーないな。」母親はそういうと、廊下を台所に向かった。
春男は座卓の前に畏まって座った。しばらくして、母親はキュウリのキムチとお茶を持ってきた。「遠慮せんと食べ。」母親は春男の食生活を気づかった。春男は二口、三口を食べると、「ちょっと甘いか。」と作った母親に味付けをきいた。「そんなことあれへんがな。」と母親は顔を歪めると春男の味覚が衰えていることを指摘した。
「おかん。醤油貸してえな。」「醤油なんて、いらんて。」母親は不承不承で席を立ったしばらくして、台所から醤油入れを持ってきた。春男はキムチに醤油を回しかけた。「お前。口が変わってしまったんや。」と母親は醤油でキムチを汚されたように思っていた。