不良
「おかん。雨漏りのほうはどうやねん。」「なにをぬかす。なおしたるという気も金もあれへんくせに。おまえに、なにか出来るんか。」母親は春男の頭から冷や水をバサーとかけた。「そんな、いいかたせんでもええのに。」「やかましいわい。この親不孝めが。」
春男は母親がちゃぶ台を片づけて、洗い物に立った隙に、二階へ足音を隠してのぼった。<これは、これは。>とつい、愚痴もでるほどの酷さだった。破れた天井板が腐って、垂れ下がっている。そのままに放置してあるので、それを伝って雨漏りの水が畳を打ちつけ畳に穴が開いている。天井は突き破れ、瓦もずれて落下しているらしい。座敷の中から、空を仰ぐことが可能である。

屋根へのぼる手製の階段は古くなって、傷んでいる。<この梯子におかんが乗ったら、下手をしたら、転んで骨折や。そうなったら、骨折で寝たきりになる。この家で、おかんはたった一人、寝たきりになってしまうのや。>と思うと、涙が溢れて目からこぼれた。

屋根瓦には、誰が補修したのか、ブルーシートが折り畳んで、剥き出しになっている部分をおおっていた。<中から、算木を打ちつけて、補修せんと強度がないやろな。>と春男は以前、電気工事の手伝いをしたときの経験を思いだしていた。<算木を打ちつけて、雨漏り防止シートゴムを敷いて、また算木でサンドイッチにするのや。その上からと、内部からと、両方で波板を打ちつけたら、なんとか雨漏りはしのげるやろ。>と算段した。

しかし春男に余分な金はなかった。バイトの時間も限られている。日中の稼ぎ、たかが知れている。母親の家を補修するには、数万とまとまった札が必要なのだった。春男は半ばあきらめて、意気消沈し、階段を元きたようにして戻った。

ちゃぶ台のある部屋で寝ころんだ。頭のうしろで指を組んでいる。考えるが、なかなか思いつかない。「おまえ。ちゃんと働いてるのかいな。ほんで、いま、どこにおるねん。」母親はそうきいてから、ちゃぶ台の前へ横座りした。「おかん。雨の日はどれぐらいの雨漏りがあるねん。」「どれぐらいて、雨の降り方によるやろ。なんや。おまえ、雨漏りをなおしてくれるんかいな。」母親はそういうと、目を輝かして近寄ってきた。

< 36 / 37 >

この作品をシェア

pagetop