不良
 大城春男は中学時代の悪友と地下鉄のホームで別れた。もう時刻は五時に近づこうとしていた。

 春男は大黒町のホームで御堂筋線の新大阪駅行きに乗った。車内は混雑していた。まだラッシュの時間にはほど遠いが、帰社を急ぐ勤め人で車内はあふれていた。

 車内はスーツ姿が主流だった。春男は普段着のようなラフな恰好にスニーカーを履いていた。よくみても、「職人風」の恰好だった。

 やがて梅田駅に着いた。春男は人ごみをかきわけるようにして前へ前へと急いだ。バイトの時間が迫っていた。

 梅田駅で時計をみると、五時二十分だ。地下道を人の流れに流されるようにして歩き、阪急東通商店街のみえる出口へでた。

 春男は煙草を取りだして一本口吸った。一、二分の信号待ちだ。鼻から煙をスーッとだしたとき、ビシャと音高く、手のひらを叩かれた。

 訳もわからぬまま、叩いた奴をみると、若くて背の高い神経質そうな感じの男だった、「こらあ、なにをさらしよるねん。」と春男はいきまいて、男の腕を掴んで手前のほうに引っ張ろうとした。しかし力は男のほうが強く、逆に押し返された。

「おっさん、禁煙、禁煙。わからんのか。」と若い男は春男に向かってきた。「やられてしまう。」と目をつむり、春男は身構えた。ボディに衝撃が走った。男は拳で春男の腹を人知れず殴ったのである。「グフッ」と鈍い声をだして春男は前かがみになった。

 信号はとっくに青だ。人の流れは、二人のやりとりを無視している。チラッとはみるが誰もその喧嘩をとめようとしなかった。春男は男に腰のあたりを蹴られた。そして、さらに、腹を殴られた。まるで大鷹がかよわい小鳥をもてあそぶような光景であった。

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