不良
 狼藉を働いた浮浪者の姿は影も形も消え失せた。見物人もザワザワといいながら、元の場所へ移動した。周囲はなにごともなかったかのようになってしまった。

「ありがとうございました。」と春男よりも年上らしい女が声をかけた。「ちょっとええ女やな。太ってるとこがええがな。こんな女を裸にむいて、転がして四つんばいにさせるほんで、尻を高くあげさせるんや。おれは指で尻の穴をグリグリとするねん。」と春男は妄想して、女の胸や尻のあたりをみて、ニヤッとした。

 春男のカラオケ仲間が、女に缶ビールをすすめた。女は断らなかった。缶を受けとるとプッシュと開けてグビリと飲んだ。「いける口なんやね。なんと頼もしい姉さんやろ。」と春男は女に興味と好意を持った。「そやけど、どうせ一時だけのことや。カラオケが終わったら、はいさいならの関係やぞ。」と自制して、深入りは避けようと思った。

 女の恰好は余所行きの服装だった。ヒールも五センチはありそうな靴を履いてた。持ち物も一流品らしい。ブランド物のバッグを持っている。指輪はダイヤらしい。春男が貴金属やバックに目を移すのは、亡くなった父親が古物販売の店を長年やってきたからである小さいころから、父親の店へ遊びに行っては、商品を玩具にして遊んでいた名残がある。
「お姉さん。新世界にはなにしにきたん。」春男は軽くきいてみた。「そこの商店街の十カツへきましてん。」「一人でっか。」「ううん。女友達二人できました。」春男はそれをきいて、「なにかあるな。」とピインと感じた。

 女は缶ビールの残りをあけて空っぽにした。そして、「ケンカになりましたんや。」と吐き捨てるようにいった。「なんでですねん。」春男は次の言葉を吐かせるようにしてきいた。「あそこの店、えらいならんでますやろ。それで、待つとか、待たれへんとかなって、余所の店へ行くとか行かんとかなって。」と女は友達と別れたことを愚痴った。

 春男はなにかを感じてた。「ひよっとしたら、いけるんとちゃうか。」と思って、いきまいた。しかし春男には軍資金が足りなかった。もらってきたバイト代はカラオケと缶ビールで消えるような金だった。「ホテル代もあれへんがな。」と笑うしかなかった。

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