不良
春男はカラオケ広場の掃除をしたり、雑用をしてわずかなバイト代をかせいでいた。好きなカラオケをいくらでも無料で歌えるのも、このバイトの魅力だった。それに、たまにこうして引っかかる女の味も堪能することができたからだ。
「おい。バイト代や。」親方と呼ばれるスキンヘッドの太った老体が、パッと紙切れを放った。それは千円札二枚だった。春男はキッと親方をにらんだ。しかし相手が悪い。元やくざの親分の成れの果てである。やはり一家を構えていた者は面構えからして違ってた。
春男は大鷹ににらまれた小鳥のようにシュンとなって、コンクリートの路上に落ちた千円札をひろってポケットにねじこんだ。女が近寄ってきて、「酷いことしよるね。」と小声でいうと、親方のほうをきつい顔でみかえした。
二人は意気投合した。春男は詮索しなかった。名前も聞かなかった。「うち、いくつにみえる。もう五十なんよ。」と女はそういうと、春男の手をにぎってきた。春男はドキンとして、手をふりはらった。「なんやねん。」と女は不満顔をみせてすねた。
「歩く気ないんかいな。」春男は動物園駅まで行く気で女を連れてきた。「泊まってもええで。」と女のほうから誘ってきた。春男は耳まで真っ赤になった。「どないしたん。」女は春男の顔を下からみあげた。春男は金が足りないことをとてもいいだせなかった。
二人は地下鉄の券売機の前に立った。「しょうもないことや。」と女はつぶやいた。春男は女が自分に怒っているものと思っていた。「しゃーないな。」と女がつぶやいた。春男は「えっ。」と問いかけた。女はしばらく黙ってたが、決めたようにしていった。
「泊めてやるがな。」女はそういうと、春男の分まで二百七十円の切符を買った。そして一枚を春男に手渡した。「泊まりにおいでや。」女は春男に耳打ちした。春男は生唾をゴクリと飲み込んだ。「ええんかいな。」ときくのが、精一杯のことだった。
天王寺駅で乗り換え、長い地下道を二人は歩いた。今度は谷町線に乗り換えた。四つか五つ目の駅だった。向かったマンションは、出入り口がオートドアロック方式であった。
「おい。バイト代や。」親方と呼ばれるスキンヘッドの太った老体が、パッと紙切れを放った。それは千円札二枚だった。春男はキッと親方をにらんだ。しかし相手が悪い。元やくざの親分の成れの果てである。やはり一家を構えていた者は面構えからして違ってた。
春男は大鷹ににらまれた小鳥のようにシュンとなって、コンクリートの路上に落ちた千円札をひろってポケットにねじこんだ。女が近寄ってきて、「酷いことしよるね。」と小声でいうと、親方のほうをきつい顔でみかえした。
二人は意気投合した。春男は詮索しなかった。名前も聞かなかった。「うち、いくつにみえる。もう五十なんよ。」と女はそういうと、春男の手をにぎってきた。春男はドキンとして、手をふりはらった。「なんやねん。」と女は不満顔をみせてすねた。
「歩く気ないんかいな。」春男は動物園駅まで行く気で女を連れてきた。「泊まってもええで。」と女のほうから誘ってきた。春男は耳まで真っ赤になった。「どないしたん。」女は春男の顔を下からみあげた。春男は金が足りないことをとてもいいだせなかった。
二人は地下鉄の券売機の前に立った。「しょうもないことや。」と女はつぶやいた。春男は女が自分に怒っているものと思っていた。「しゃーないな。」と女がつぶやいた。春男は「えっ。」と問いかけた。女はしばらく黙ってたが、決めたようにしていった。
「泊めてやるがな。」女はそういうと、春男の分まで二百七十円の切符を買った。そして一枚を春男に手渡した。「泊まりにおいでや。」女は春男に耳打ちした。春男は生唾をゴクリと飲み込んだ。「ええんかいな。」ときくのが、精一杯のことだった。
天王寺駅で乗り換え、長い地下道を二人は歩いた。今度は谷町線に乗り換えた。四つか五つ目の駅だった。向かったマンションは、出入り口がオートドアロック方式であった。