最期のYou Got Maile
嵐の前に…
 カタカタカタ…カタカタカタ…。
 パソコンのキーボードを叩く指が震えている。寒くもないのに、歯がカチカチを音をたてる。
 画面に映し出されている文字を指でなぞり、私はやっぱり身勝手な女だなと思った。
 カタカタ…カタ…。
震える指先に力を込め、まるで初めてキーボードを触る人みたいに、人差し指のみで文字を打っていく。
 今の私にはこれが精一杯。たったこれだけの作業に、すでに数時間が過ぎようとしている。
 コレは私のエゴだ。寂しくてどうしようもない私のエゴ。このエゴがまた彼を傷付ける事は解っている。それでも私はこのエゴだけは、ちゃんと形にしたかった。これが、私の最後のワガママだから…。
 カタ…カタカタ…。
 指が上手く動かない。後もう少しなのに動かない。やっと動いたと思った指先は、意思とは別の方向に落ち私のイライラを募らせる。
 神様、どうかお願いです。後少しなんです。もう少しだけ私に時間を下さい。私は信心深くもないし、どちらかというと放蕩で、お願いできるような立場じゃない事は解っています。でも、最後なんです。お願いします。
 やはり私は身勝手だ。こんな時にだけ、信じてもいない神様に懇願している。
 奇跡というものは、案外多く起こっていて、ただ、それに気付かないだけだよ。
 と、誰かが言っていたような気がした。だから、その時私の身に起こった事も、そんな数多く起こる奇跡の一つだったのかもしれない。
 突然、私の体が軽くなり、震える指がしっかりと動かせるようになった。それが、嵐の前の静けさであったことは言うまでもないが、その瞬間が今この時に訪れた事を、私は神に感謝をした。
 
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