最期のYou Got Maile
忘れえぬ恐怖
恐怖は突然やって来た。
 昨日まで、何もなかったのに。普通に暮らせていたのに。私の体に巣くう病魔の事など忘れていたのに。それは突然やって来た。
 突然、頭を鈍器で殴りつけられているような激しい痛み。立っていられなくなるほどの吐き気、最後には目の前が真っ暗になった。
 私は、『多型膠芽腫』という脳腫瘍を抱えていた。助かる見込みは0。つまり、不治の病にかかっているのだ。
 それでも、つい最近まではそんな自分の病気の事など忘れていた。たまに視野が暗くなったり、偏頭痛や、平衡感覚の不調などは意識していたが、我慢できない程ではなかった。もしかしたら、このまま病気が良くなっていくんじゃないか?などと錯覚さえ芽生えていたくらいだ。だが、現実はそんなに甘くない。
 発作が起きたのが、自分の部屋だったのは不幸中の幸いだった。会社で発作が起こったら、否応なしに私の病気が知れ渡ってしまうだろう。私は、そんな事で皆の同情を買おうとは思わない。私はそんな弱い女ではないのだから。
 割れそうな頭を押さえながら、医師に処方された薬を掴み、水も使わず飲み下す。処方箋には用法などが記載されていた気がするが、そんなのいちいち見ている暇はない。
 薬の効果は覿面で、しばらくすると、先程まであんなに激しかった痛みが和らいだ。
***
「大丈夫?今日は特に酷い顔してるよ?」
 会った早々、彼の口から出たのは、そんな無神経な言葉だった。
「それじゃまるで、私がいつも酷い顔してるみたいに聞こえるけど?」
「肯定はしないけど、否定もしないよ」
 悪びれなくそう答える少年に、私はわざと凄んで見せる。すると、彼はおどけたように怖がるふりをした。
「今日は遊園地へ行く?それとも動物園?あ、この間、お化け屋敷行きたいって行ってたから、遊園地で決まりかな?」
 そんな健全なデートスポットを挙げる少年を見ていると、どこからどう見ても、一般的な中学生にしか見えない。しかし、彼は、私が所属するアダルト系出会いサイトの運営者なのだ。
 彼の家は、中流階級の上と言った家庭で、ごく一般的に育てられたのだという。彼自身も、ごく普通の学生生活をしていたが、ある日転機が訪れた。
 
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