最期のYou Got Maile
私は、自分が死んだ後の処理に困らないように、保険会社や、葬儀屋まで全て滞りなく済むように準備をしていた。自分が死ぬ為の準備ができる人間など、そうはいない筈だ。私は変な優越感を覚え、そんな馬鹿な自分をちょっとだけ可愛いと思って、クスリと小さく笑った。
「やっぱり、お姉さんには笑顔が似合うね」
自分のアパートが目前に近づいた時、私は、信じられない物を目にした。
アパートの部屋の扉の前に、制服を着た少年が立っている。胸に、馬鹿みたいな赤い薔薇を差して、私に微笑みかけている。
これは、夢だ。現実の筈がない。私の体中に転移した癌が、幻を見せているのだ。
「探すの。結構苦労したんだよ」
これは夢だ。幻だ。幻なのに、涙が溢れてくる。
「僕は、泣いてるメル嬢も好き。でも、メル嬢には笑っていて欲しいんだ。笑っているメル嬢の顔が一番好き」
何故だろう?どうして、彼の手はこんなに温かいのだろう?こんなにも安らいでしまうのだろう?
「わ、私…」
何か言おうとした私の口を、彼の唇が遮る。
どうして、あんなに堅い決心をした筈なのに、重ねられた唇を離す事が出来ない。
「もう、何も言わなくて良いんだ。メル嬢は一人じゃない。僕がいるから。今だけでいいから。メル嬢が死んじゃうなら、それまででも良いから。僕はメル嬢の側にいたい。せっかく会えたんだから、最後まで僕に見届けさせてよ。中途半端は嫌なんだ。約束してよ。最後まで、僕に見届けさせるって」
私は何も言えなかった。言えないまま、彼の厚い包容に身を任せていた。それが、私の答えだったから。
私は一人じゃない。こんなにもそれを実感できたことが、今までにあっただろうか?
今、この瞬間だけでも、私は一人じゃない。そう思えたら、『死』なんて怖くないと思えた。もし、天国という場所が存在するとするならば、それは今この瞬間だ。彼の腕に抱かれているこの瞬間こそが、私にとって天国だった。
死後の世界は生きている者にこそ必要な場所だ。
本当に、そう、心から思えた。
「やっぱり、お姉さんには笑顔が似合うね」
自分のアパートが目前に近づいた時、私は、信じられない物を目にした。
アパートの部屋の扉の前に、制服を着た少年が立っている。胸に、馬鹿みたいな赤い薔薇を差して、私に微笑みかけている。
これは、夢だ。現実の筈がない。私の体中に転移した癌が、幻を見せているのだ。
「探すの。結構苦労したんだよ」
これは夢だ。幻だ。幻なのに、涙が溢れてくる。
「僕は、泣いてるメル嬢も好き。でも、メル嬢には笑っていて欲しいんだ。笑っているメル嬢の顔が一番好き」
何故だろう?どうして、彼の手はこんなに温かいのだろう?こんなにも安らいでしまうのだろう?
「わ、私…」
何か言おうとした私の口を、彼の唇が遮る。
どうして、あんなに堅い決心をした筈なのに、重ねられた唇を離す事が出来ない。
「もう、何も言わなくて良いんだ。メル嬢は一人じゃない。僕がいるから。今だけでいいから。メル嬢が死んじゃうなら、それまででも良いから。僕はメル嬢の側にいたい。せっかく会えたんだから、最後まで僕に見届けさせてよ。中途半端は嫌なんだ。約束してよ。最後まで、僕に見届けさせるって」
私は何も言えなかった。言えないまま、彼の厚い包容に身を任せていた。それが、私の答えだったから。
私は一人じゃない。こんなにもそれを実感できたことが、今までにあっただろうか?
今、この瞬間だけでも、私は一人じゃない。そう思えたら、『死』なんて怖くないと思えた。もし、天国という場所が存在するとするならば、それは今この瞬間だ。彼の腕に抱かれているこの瞬間こそが、私にとって天国だった。
死後の世界は生きている者にこそ必要な場所だ。
本当に、そう、心から思えた。