最期のYou Got Maile
でも、僕は泣かない。
 彼女のメールにあった通り、彼女は死んでなどいないからだ。
 世界中の誰もが彼女の事を忘れてしまっても、僕だけは覚えている。だから、彼女は僕の心の中で生き続けているんだ。
 だから、泣かない。もう、この場所に来ることもないだろう。
 だって、彼女は僕がこの場所に来る事を望んでいないのだから。
 そう、科学的に考えれば、彼女はここにはいない。いる筈がない。 
 彼女の体は元素に分解され、水になり、空気になり、あらゆる自然現象と融合してこの地球を流転している。
 だから、僕は一人じゃない。彼女は、いつも僕の側にいてくれているのだ。
 それが解っているから、僕は泣かない。
 泣けないよ…。
 僕が彼女を恨むだって?忘れるだって?そんな事、できる筈がないじゃないか!僕は本当に彼女の事が好きだったんだ。もっと側にいたかったんだ。それなのに…。
 僕は、どうしようもなく子供だった。
 泣かないって言ってるのに、わんわん泣いていた。誰かに聞こえるんじゃないかなんて考える余裕もなく、大声をあげて泣いた。
 もしかしたら、その声を聞きつけて、彼女がひょっこり現れてくれるんじゃないかと思って。優しく、濡れた頬を撫でてくれるんじゃないかと期待して。
 でも、奇跡は起こらなかった。
 散々泣いた後、僕はその場所に花を手向けた。
「ごめん。それでも、僕はこの場所に時々来てしまうよ。だから、そんな僕を叱ってよ。嘘でもいいから、僕を抱きしめてよ」
 アダルトサイトの運営は止めた。あれはもう、必要がないから。
 明日から、また楽しくないけど、苦労もしない日々が始まる。それはこの先ずっと続いて行くだろう。そんな日常に、この想いは薄れていくのかも知れない。
 でも、僕は彼女の事だけは忘れない。
 そして、僕はその場所を後にした。
 最後まで彼女の幻聴を聞くこともなく…。
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