最期のＹｏｕ Ｇｏｔ Ｍａｉｌｅ

　見ると、医師が哀れむような、困った表情をしている。その、暗く落ちくぼんだ目が言っている。「お前は死ぬんだ」と。
「…そんなのあんまりよ…。だって、私、まだやりたいことだっていっぱいあるのに…。恋だって…そんな…なんで私なのよ？私が何をしたってのよ！」
　感極まって、思わず医師に怒鳴りつけた。怒鳴りつけられた医師は、まるで日常茶飯事の出来事のように、わめき散らす私を静かな目で見つめている。
「思い残す事があるなら、早めに…」
　その言葉が最後通告だった。
　私はその場に泣き崩れ、みっともなく声をあげて泣いた。
　それから、どれくらいの時間が過ぎたか…。どこをどうやって帰ったのか、私自身思い出せないままに、私は自分の狭いアパートの部屋に帰ってきた。
　一人きりの暗く狭い部屋が、今はやけに広く感じる。私はここに一人なのだ。
　気怠い気持ちで、私はテーブルの上に置かれたパソコンのメインスイッチをＯＮにした。
「ＹＯＵ　ＧＥＴ　ＭＡＩＬ！」
　パソコンが起動し、インターネットに接続されると同時に、電子メールの受け取りがコールされる。いつも聞き慣れたお馴染みのコールだ。送ってくる人間については殆ど何も知らないが、その内容は大体察しがついている。不特定多数の彼らが送ってくる内容は、いつも同じようなものだからだ。
　***
私は、県内ではかなり大きな企業のＯＬをしていた。主な仕事は、コピーにお茶くみ、そして必殺の０円スマイルである。
　何のことはない。どこにでもいる一般的なＯＬ業だ。そんな私だったが、一つだけ、一般のＯＬとは少し違った副業を行っていた。それは、一日の多くを会社のパソコンの前で、つまらない事務処理にあたるＯＬならではの副業といえたかもしない。
「ＹＯＵ　ＧＥＴ　ＭＡＩＬ！」
　電子メール受信のコールに私は一瞬身を震わせ、辺りを見回す。そして、誰にも怪しまれないようにそっと電子メールの内容を確認するのだ。
「ありがとうございます。お約束の金額を銀行振替にて送金させていただきました」
　その内容に、私はニッコリと満面の笑みを浮かべた。