Chocolat ordinaire Une nouvelle
指定された明大前駅のホームに着いてはみたものの、あまりの人混みとホームが2つあるのでどちらか解らずに電話をかけた。


「あー?」

「真輝、ホームがどっちかわからないんだけど…」


「馬鹿野郎!探せよ。」

「ごめん」

「遅れたらぶん殴ってやるって言っただろうが!ホームは高尾山口方面のやつだよ。」

「まさっ」


やはり、武蔵が言葉を発する前に電話は切れていた



(あいつ、マジで馬鹿?そんなに泣きそうな顔して探さなくても。)


武蔵が必死そうな顔をして自分を探している姿を遠目に見て真輝は思わずくすっと笑っていた。


真輝も仕事以外ではジーンズにロンTでカジュアルにしている。
プライベートではメガネをかけていたが、ここに来るまでに誰1人として声すらかけられなかった。

(人って正直だよな。人気ある時はウザい位だったのにな)


そんな事を思ってたら泣きそうな顔をした武蔵がようやく真輝を見つけた。


「ごめん。遅れた」

「もういいよ」


「んな、必死そうな目で見んなよ!俺がお前に意地悪してるみたいに見られるだろーが!」


「ごめん。気が利かなくて」


「あーもう!とっとと来た電車乗るぞ!」


電車の中は平日の通勤ラッシュを過ぎたのか幾分か空いていた。
2人は並んで奥の座席に腰掛けた。


「んで、何処行くんだ?」


「知るかよ、ボケ」

「んな事言ったって、降りないといけないだろ?」

「いい所」

「そんな…いい所だなんて…真輝。まだ明るい…」


ぽっと顔を赤らめた武蔵を可愛いと思いつつ悪態をついた。

「阿呆かよ。馬鹿もたいがいにしろよ。」


「じゃあ何処」

「だからいい所」

「真輝ぃ…」

「ついたら教えてやるから暫く黙ってろ!」


「わかった」

子犬のようにしゅんとする武蔵、余りに素直過ぎる。


電車が調布に着くと2人は再び橋本行きの電車に乗り換えた。
朝早く叩き起こされた武蔵は電車の揺れが心地良くてつい居眠りをしてしまっていた。


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