あいうえおかきくけここいごころ
「で、しょうちゃんはどうしたの?」
雨もだんだんと強くなってきた。
地面を強くたたいて跳ね返った飛沫が足をぬらす。
しょうちゃんの持っている傘も、もう水をはじくのは限界なんていわんばかりに雨を受けている。
「ちょうどバイト帰りなんだけど、たまたま由紀ねぇちゃんを見かけたからさ」
どうぞ、と傘を差し出してくれる。
「……傘貸してくれるの?」
「由紀ねぇちゃん鬼畜!俺に濡れて帰れって?違うよ、近所なんだし一緒に帰らないかなって」
ね、なんていいながら笑うしょうちゃんを見て、いまどきの子って色々と進んでるんだなぁと思った。私ババくさいけど。しみじみと思わずにいられなかった。
男の人に親切にしてもらえるようになったのって、大学を卒業してから。
この会社に入ってしばらくして、コピー用紙を運んでたら持ってあげるよって言ってもらえた。
それくらい。
しょうちゃんと同じ高校生のときなんて、傘を貸すどころか勝手に持って帰られたりもした。
うちのいとこは、ちゃんと育ったんだなぁ。
感心感心。
一歩踏み出してしょうちゃんの傘に入る。
よろしく、なんてつぶやいて駅に向かって歩いて。他愛のない会話が弾む。
けれど、もともとしょうちゃんが持つには小さい傘が、二人を覆いきれるはずも無く。
それなのに、私はほとんど濡れることなく家にたどり着くことが出来た。
しょうちゃんの肩の半分がびしょぬれになっているのに気づいたのは、家についてから。
電車に乗ってるときに気づけばいいものの、鈍すぎる自分自身に嫌気が差した。
「ありがとうしょうちゃん…ごめんね!今度なんかご馳走する!」
「ボリューム系で!」
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、ちゃんとお詫びとお礼をしようと思う。
笑いながら帰っていった優しいしょうちゃんのために。