ふたり



山奥の川の渓流に沿って並ぶ温泉街に到着してから



眠る私の肩を優しく柊ちゃんは 揺すって起こしてくれた



旅館に入り お部屋に案内されると



「わぁ~」と思わず声が漏れた



茶とオフホワイトを基調としたおしゃれな和室


お茶を出し館内の説明を仲居さんがしてくれると



「兄妹でご旅行ですか?」



笑顔で訊かれ


……どう見ても中学生な私は


柊ちゃんの奥さんに見えるはずない



はい。と答えようとしたら



「妻ですよ」



柊ちゃんは涼しい顔して


お茶を一口飲んだ



えっ 柊ちゃんっ



当たり前に仲居さんが


驚いた顔をして



「……あ、それは失礼しました

え、えぇと…奥さまには
レンタル浴衣がございますので
後ほど、一階 売店の…………」



この旅館では女性に可愛い浴衣をレンタルしてくれるサービスがあって



その説明を困惑した表情で続け 仲居さんは部屋を出た



私はテーブルを挟んでお茶を飲む柊ちゃんをにらみ



「児童買春容疑で刑事が来たって知らないから」



私の言葉に柊ちゃんは吹き出して


「なんだそれ」って笑った



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