少女のための日本昔話
うらしまたろう
【浦島太郎】
~亀を助けた浦島太郎は、竜宮城で夢のような時間を過ごしたのでした~
「・・・え?帰るって・・・」
「うん、残してきたおっかあがそろそろ心配だし、大丈夫、様子見たらすぐ戻ってくる」
「そんな・・・」青ざめる乙姫を、
浦島はちゃかすように笑って問いかける。
「それとも一緒に来るか?」
「・・・それは・・・できません」
乙姫がそう言ってうつむくと、浦島はわかってた、というように頷いた。
「だから、待ってろな。」
散歩にでも行くように気楽にそう言いおいて、浦島がきびすを返す。
その背中を、乙姫が呼び止める。
「待って!」
なに?と気軽に振り向く浦島に、乙姫は震える声で、そっと切り出した。
「・・・渡さなければならないものが、あるのです」
「すっげえ、綺麗だなあ。」
受け取った塗りの箱をかざして浦島は無邪気に喜ぶ。
その腕に、乙姫は必死にとりすがった。
「これだけは、約束して。
絶対に、箱を開けないで。」
「へ?なんで?」
きょとんとして浦島が見返すと、乙姫は切々とその瞳に訴える。
「お願いですから、そのまま、返しに来て。
・・・すぐに、戻ってきて。」
お願いです、お願いです、
そう繰り返して小さく震える乙姫を、浦島は笑いながら引き寄せた。
「なーんだよ、なに不安になってんの?
信じてよ。
ちゃんと戻ってくるから」
その口調はどこか楽しそうで、やさしく響く。
「持って帰ってくればいいんだろ?じゃあ帰ってきたら、一緒に開けていい?」
「はい。」
「わかった、楽しみにとっとくよ。」
なだめるようにぽんぽんと背中をさすられ、乙姫はほっと息をついた。
「・・・はい、信じてます・・・。」
その言葉に嘘はなかったか、
毒をはらんではいなかったか。
私の物にならないのならいっそ―――
箱を開けたか、
途中で捨てたか、
開けずに忘れてしまったか
浦島がどうなったのか、確かめるすべはない。
けれど乙姫は、今日も海の底から空を思い描いてため息をつく。
水面に届いた泡が、はじけて何ごとか呟いた
【終】
~亀を助けた浦島太郎は、竜宮城で夢のような時間を過ごしたのでした~
「・・・え?帰るって・・・」
「うん、残してきたおっかあがそろそろ心配だし、大丈夫、様子見たらすぐ戻ってくる」
「そんな・・・」青ざめる乙姫を、
浦島はちゃかすように笑って問いかける。
「それとも一緒に来るか?」
「・・・それは・・・できません」
乙姫がそう言ってうつむくと、浦島はわかってた、というように頷いた。
「だから、待ってろな。」
散歩にでも行くように気楽にそう言いおいて、浦島がきびすを返す。
その背中を、乙姫が呼び止める。
「待って!」
なに?と気軽に振り向く浦島に、乙姫は震える声で、そっと切り出した。
「・・・渡さなければならないものが、あるのです」
「すっげえ、綺麗だなあ。」
受け取った塗りの箱をかざして浦島は無邪気に喜ぶ。
その腕に、乙姫は必死にとりすがった。
「これだけは、約束して。
絶対に、箱を開けないで。」
「へ?なんで?」
きょとんとして浦島が見返すと、乙姫は切々とその瞳に訴える。
「お願いですから、そのまま、返しに来て。
・・・すぐに、戻ってきて。」
お願いです、お願いです、
そう繰り返して小さく震える乙姫を、浦島は笑いながら引き寄せた。
「なーんだよ、なに不安になってんの?
信じてよ。
ちゃんと戻ってくるから」
その口調はどこか楽しそうで、やさしく響く。
「持って帰ってくればいいんだろ?じゃあ帰ってきたら、一緒に開けていい?」
「はい。」
「わかった、楽しみにとっとくよ。」
なだめるようにぽんぽんと背中をさすられ、乙姫はほっと息をついた。
「・・・はい、信じてます・・・。」
その言葉に嘘はなかったか、
毒をはらんではいなかったか。
私の物にならないのならいっそ―――
箱を開けたか、
途中で捨てたか、
開けずに忘れてしまったか
浦島がどうなったのか、確かめるすべはない。
けれど乙姫は、今日も海の底から空を思い描いてため息をつく。
水面に届いた泡が、はじけて何ごとか呟いた
【終】
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