忘却心  第一幕 月下章
お世辞にも言えない無造作に詰まれた木箱の山に放り投げて放置されている、古めかしい年忌物の分厚い皮で出来たベルト。それを手短な木箱を踏み台に使い、うんと背を伸ばしてそのベルトを投げよこす。
それを暴れるマーヴェと言われた青年によく似た女性が片手で容易く指に引っ掛ける形で受け止める。



「ありがとうねー。ほら、いい加減腹くくりな!!」


「もうくくられてるじゃねーか!!」


「ほぉ…なら…。」



潰れた様な声と一緒に出てくるのは骨が外れてしまう様な鈍い音が一つ。それを聞きながら、踏み台にしていた木箱に腰を落ち着ける。
ぼんやり、テント内を照らす天井に吊されたランプの束に雪とは違った温かみがある光を眺める。




「ほら!終わったから其処をどきな。」



理不尽だと嘆く、仮にも自分より年上の青年を哀れそうに一括してフィルラは手招きする彼女の元に近寄る。ベルトはこれでいいだろうか?そう腰に吊しておいた、さっきのベルトより少し小振りなベルトを差し出す。


「あんたは痩せっぽちだからね。さて、シャツをズボンに入れな。」



「うん。」



少しよれたシャツは直ぐ傍でうなだれるマーヴェのお下がりだ、大きすぎる気もしなくはないがピッタリ合ったサイズより楽は楽だ。太もも半分まであるシャツを皺に気を付けながらしまい込めば、すっと腰に手を回されてベルトを差し込まれる。捕まってろと言われたので胸元辺りにある彼女の頭を支えにそろそろ来るであろう締め上げられる感覚に準備する。肺から溜まりに溜まった空気を吐き出せば、クスクス笑う声が直ぐ下で聞こえる。

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