忘却心 第一幕 月下章
「…う、あ…あぁ…。」
くぐもった声がしんとした部屋に響き渡った。壁にはきらびやかな装飾を施しているのに今では薄暗く外からの光を遮るようにした部屋はそのきらびやかさも意味をなくしていた。
そんな鈍い光を持つ部屋で、静かに腰かけている椅子に縮こまるようにして心臓があるであろう位置を掴み痛みに悶えるのはしわがれた手を持つ老婆であった。
「もう、す…こし…待て…待つのじゃ。」
ぜいぜいと荒い息を吐きながら自分の体内で蠢く何かを必死で中に押さえつける。
まだ…まだ、代わりが…おらんのか…。
荒い呼吸を繰り返しながらキッと床を睨み付ける瞳は充血していて目の周りには黄ばんだ膿がたまっている。
そしてしばらく床を睨みに睨むと一度大きく腹のあたりがびくりと震え、音もなくいきなり蠢くような痛みが引いた。
「はぁ、あぁ…は、ぁ……。」
「おやおや…また発作ですか…?最近は多いですねー…。」
ぐっと下げていた視線を上げると部屋の戸に背を預けながら此方を見つめる輩、先ほどの白々しい笑みを同じように浮かべた青年ヴェクトルが居た。
「……煩いわい…。小、童…如きが…。」
「ほほーう…まだまだ肉体は衰えても威勢だけは健在のようで何より何より。」
にやにやと口元を歪みに歪めるヴェクトルは預けていた背をゆっくりと正し、老婆の腰かける椅子の後ろに足を進めた。
その際、ゆっくりと懐に入れていた羊皮紙を取り出すとそれをおもむろに広げ老婆に渡した。
くぐもった声がしんとした部屋に響き渡った。壁にはきらびやかな装飾を施しているのに今では薄暗く外からの光を遮るようにした部屋はそのきらびやかさも意味をなくしていた。
そんな鈍い光を持つ部屋で、静かに腰かけている椅子に縮こまるようにして心臓があるであろう位置を掴み痛みに悶えるのはしわがれた手を持つ老婆であった。
「もう、す…こし…待て…待つのじゃ。」
ぜいぜいと荒い息を吐きながら自分の体内で蠢く何かを必死で中に押さえつける。
まだ…まだ、代わりが…おらんのか…。
荒い呼吸を繰り返しながらキッと床を睨み付ける瞳は充血していて目の周りには黄ばんだ膿がたまっている。
そしてしばらく床を睨みに睨むと一度大きく腹のあたりがびくりと震え、音もなくいきなり蠢くような痛みが引いた。
「はぁ、あぁ…は、ぁ……。」
「おやおや…また発作ですか…?最近は多いですねー…。」
ぐっと下げていた視線を上げると部屋の戸に背を預けながら此方を見つめる輩、先ほどの白々しい笑みを同じように浮かべた青年ヴェクトルが居た。
「……煩いわい…。小、童…如きが…。」
「ほほーう…まだまだ肉体は衰えても威勢だけは健在のようで何より何より。」
にやにやと口元を歪みに歪めるヴェクトルは預けていた背をゆっくりと正し、老婆の腰かける椅子の後ろに足を進めた。
その際、ゆっくりと懐に入れていた羊皮紙を取り出すとそれをおもむろに広げ老婆に渡した。