雑草だから笑う。
夕方からの仕事は母と2人で車で行っていた。


ほとんど弱音を吐かない母がその車の中で二度ほど同じことを言ったことがある。








 「このまま海に入ろうか」










思いつめたようでも泣きながらでもない。

本当に普通の声のトーンで。



 「うん。そうしようか」




そう声にでかかった。


でもその時にふと彼の顔が思い浮かんだ。

父でも兄でも祖母でもない。


彼の顔が。



こんな環境の私でも全てを受け止めてくれている彼。
その彼のためにもそれだけはしてはいけない。



 「何言ってんの」



できるだけ普通に答えた。



母はその後、何も言わず車を店へ走らせた。






時々ふと思う。



あの時「うん」と言っていれば私は楽になれたかもしれないと。


「うん」と言っていれば母をこの後の苦しみから救ってあげることができたかもしれないと。


これは後悔なんだろうか?


私はそう思わない。


ただ、時々ふとそんな風に思う。




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