precious one
座ったっきり、稔太は何も話さなかった。
あたしも、何も言えなかった。
沈黙だけが、流れて。
稔太はひたすら、携帯を開いたり閉じたりしてるだけ。
その時。
「俺の両親な、」
稔太の手が止まって、ゆっくりと話し始めた。
「1歳の時、両親は俺を捨てて家を出た」
片膝を立てて、あたしと視線を合わさずに話す稔太。
「元々、じーちゃんも俺が生まれる前に死んでてさ。
一人っ子だったし、それからずっとばーちゃんと二人で」
稔太は、自分の膝に顔を埋めた。
心なしか、少し震えてる気がした。
「寂しかった。ずっとずっと、孤独だった」
掠れた稔太の声に、あたしは涙が込み上げてきた。