precious one


「俺は16年間、ばーちゃんの愛情しか知らない。笑顔の溢れる家庭なんて、俺には関係ない」


あたしは、涙をこらえることが、できなかった。

こんなに弱い稔太、見たことない。


いつも明るくて、バカばっかやって。

それでも人一倍、友達思いで。


そんな稔太が、弱々しい声を出しながら、愛情を知らないと言う。


悲しかった。

寂しかった。


稔太を思うと、涙が止まらなかった。


「俺、両親と写ってる写真、1枚もないんだ。多分、家を出る時、捨てたんだと思う」


その時、稔太は顔を上げた。

悲しそうに、笑ってた。


「両親の顔は、なんとか知ってるけど。それでも俺は、“親”ってものを知らない」




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