precious one
「稔太ー?」
あたしの手を引いたまま、こっちを見ない稔太。
いつもと、雰囲気が違うのには気付いた。
どうしたのか、怖くて聞けずにいる。
「ねぇ、稔太ってばっ」
少し強めに呼ぶと、稔太の足は止まった。
そして、ゆっくり振り返る。
「どうしたの…?」
いつもの元気がない稔太。
さっきも、筒本につっかかるようにして。
仲が良い、二人なのに。
すると。
「俺、まじ余裕ねぇー」
呟くように、稔太は言った。
あたしと手を繋いだまま、もう片方の手で、
自分の髪の毛をぐしゃぐしゃにした。
そして、一つ、溜め息をついた。
「余裕って?」
稔太の吐いた言葉の意味が分からず、あたしはキョトンとする。