precious one


「稔太は今まで彼女の前で、自分を作ってた。多分無意識にだと思うけど」

「え?」


自分を…作ってた?


「普通彼女の前で、自分なんて作んないだろ? 多分稔太にとって、心から好きな子じゃなかったんだよ。
だから最後は、いつも無理して終わってた」


自分を作ってる稔太が、あたしは想像つかなくて。

だってあたしといる稔太は、ありのままに見えるんだもん。


「彼女の前で素を出してる稔太、今回が初めてだよ」

「へ?」


初めて?


「井上の前では、稔太は自分を出してる。それぐらい井上のことが、好きなんだろうな」


その言葉を聞いて、あたしは温かい何かが込み上げた。

胸が苦しくなって。

筒本の向こうに見える稔太が、歪んで見えた。




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