precious one


「おいっ、井上っ?」


焦った筒本が、あたしの前であたふたする。

ごめん、筒本。

あたしこの涙、止められないよ…


「遊史、またいじめてんのか、お前は」


その時、聞こえた稔太の声。

ハーっとため息を吐いて、筒本を睨む。


「いじめてねぇって! 稔太のせいだよ、稔太の」

「は? 俺が何したっつーわけ?」


言い争う二人の横で、あたしはただ泣くしかできなくて。

もうすぐ迎えのバスが来るのに、あたしの涙は止まろうとしなかった。


あたしは、目の前の稔太の肩にしがみついた。

驚いて、一瞬ビクッとした稔太も、

すぐにあたしを引き寄せた。


優しく頭を撫でてくれる稔太の手の温もりが、

更にあたしの涙腺を弱めたんだ。




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