precious one
隣の稔太に寝られてしまっては、あたしはすることがなくて困る。
バスの中ってさ、普通は隣同士楽しく話したりするもんでしょ?
なのに、稔太は寝ちゃって。
眠いのも分かるけどさ、あたしに構ってくれてもいいじゃん。
ちょっと拗ね気味に足をバタバタさせていると、
「愛花、聞いたー?
なんか部屋割りね、6人部屋らしいよ?
他の学校の子と一緒みたい」
後ろから顔を覗かせた利香が、明るめの声で言った。
「仲良くなれるかな?
ちょっと楽しみなんだけど」
利香の声は、ハキハキしていて、よく通る。
そのため、うるさいと言われがちで。
「森崎、声でかい」
目を閉じたまま眉間にシワを寄せた稔太が、
嫌そうに呟いた。
「なによ、渋谷。
バス乗ってソッコー寝るとか、かなりシラケるんだけど?」
こうした利香の挑発は、今に始まったことじゃない。