precious one


先生の顔を見た利香は、大人しく自分の席に座った。

稔太は寝るのをやめたらしく、肘を立てて少しむくれていた。


「稔太、寝ないの?」


あたしが問いかけると、


「森崎のせいで、目ぇ覚めた」


むくれた顔であたしを見た稔太は、

いじけた子供みたいで、なんだか可愛かった。


「愛花、今日、遊史に何言われた?」

「へ?」


その時、稔太がいきなり真剣な顔になって、

あたしはびっくりしてしまった。


「遊史に何か言われて、愛花泣いてただろ? 何言われたの?」

「あー…」


多分稔太は、あたしが筒本に嫌味を言われて、泣いたって思ってる。

本当のことを言うのが恥ずかしくて。


「んー、内緒。でも嫌なことじゃないよ?」

「なにそれ。俺超心配してたのに」


その言葉だけで、あたしには充分だよ。




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