precious one
4.
稔太に引っ張られて着いた場所は、
体育館の入り口。
宿舎とは少し離れていて、人の気配はあまりしなかった。
稔太はあたしの手を離すと、段差に腰を下ろした。
「何してんだよ? 早く愛花も座れよ」
「あっ、うん…」
ちょっと控えめに、稔太の隣に座った。
微かに触れる肩から、稔太の体温が伝わってくる。
座ったのはいいけれど、何も会話がなかった。
稔太は、あたしと逆の方を向いてるから、表情までは分からなくて。
手持ち無沙汰に、指をいじって遊んでた。
「あのさー」
その時、稔太の声がした。
その声に反応して稔太を見ると、
視線がバッチリと合ってしまい、少し恥ずかしくなった。