慟哭
「…しんちゃん、なんでスーツなんか着てんの?」
しんちゃんはこの春地元の大学に入学した。とっても頭が良くて、なんでも、もっといい大学に行けるのに地元の国立大にしたとか。
まだ一年生だから、就活には早いし。
「まーな、ちょっとね」
といいつつ、私のペットボトルを奪ってぐいぐい飲む。
しんちゃんに会うのはかなり久しぶり。
大学に入学したとたん、バイト三昧で全然家にいないみたいで、大学に入学したのかバイト先に入社したのかわかんないわ〜ってしんちゃんのお母さんが言ってた。
「利香こそ、こんなとこで何してんの?」
「…ちょっとね」
いえ、私は本当に何にもです。
それにしても、しんちゃんみたいな背の高い人はスーツがよく似合うな。
こんなにも暑いのにスーツを着ていても涼やかに見える。
本当は暑いだろうけどね。さっきのジュースの飲みっぷりからして。
「しんちゃんスーツ似合うね」
ペットボトルを(ほぼ空になった)返してきたしんちゃんを見上げながら言う。
「…暑さでアタマやられたのか?おまえが褒めるなんて珍しい」
見上げたその角度が、公園で会ったあの男の人を見上げたときと似ていた。
「カッコイイとは言ってないけど?ねぇ、しんちゃんて身長どれくらい?」
あの男の人も同じくらいなら、という思いだけで聞いたんだけど。
「なに利香、急にそんなに興味示されてもなあ」
茶化されてしまった。まさか頭の中は別の人のことでいっぱいとは言えない。
「…や、ホントに背が高いなあって思っただけでっ」
妙に慌ててしまって余計にあやしくなってしまう。
「今日オレ忙しいんだわ。また今度な。たまには利香にもゆっくり付き合うよ」
「ごめんね。呼び止めて」
しんちゃんは大きな手で私のアタマをぐりぐりっと撫でて「早く帰れよ」と言ってコンビニの中へ入って行った。
ジュースも空だし、ごみ箱へ捨てると自転車に乗った。
走りだす前にコンビニの中のしんちゃんに目を向けると、女性用の化粧品を手にしていた。