慟哭



 化粧品、あれはお泊りセットみたいなやつかな、それと…ストッキングを手にし、ジュースの方へ移動するようだ。



 見たてるのがばれるのもアレだし、さっと走りだした。



…しんちゃんなら、もてるだろうけど。でも化粧品て。



 んー…
 あれだ、大人、なんだな。



 スーツをかっこよく着こなしてて、化粧品を誰かのために買うなんて。



 昔は一緒に遊んだのに、今は忙しそうで、見た目も随分変わってしまって。



 …なんだかな〜




 帰ろ。



 妙に凹んだ気持ちが抑えられないのはなんでだろう。



 …しかも最近よくあるし。



 いつだったか同じようなブルー具合に凹んだ時があったような。



 ああ、里美にも思ったことがあったっけ。



 「うらやましい」



 私にはわからない感情。



 しんちゃんの行動が彼女へのものかどうかは別として…


 なんだか大人なこと、私が知らないものを知っている、ということに。


 知らない私だけが取り残されているような気がして。


 …焦ってもないし、妬んだりしない。でもちょっとうらやましい。


 ま、私は私だから。しょうがない。


 そして、今はテスト!


 何度目かの「帰ろ」をようやく実行した。




 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 その時の私は、まだ気が付かなかった。


 その「会いたい」という気持ちの正体がなんなのか。


 そしてしんちゃんがスーツでいた理由も、答えてくれなかった理由も。




 人間の内側の感情は外から見えない分、複雑で理解は難しい。


 そしてその感情だけに素直にしたがって生きていくのもまた、難しい。


 これから私は、今まで知らずに生きてきた、人間の生々しいくらいの、数々の感情…




 恋をする、人を愛する
 悲しみ、悔しさ
 嫉妬、憎悪、独占欲
 幸せ、安心
 恐怖、不安……




 それらは例の、なかなか再会を果たせなかったあの男の人によって、私にもたらされることになる。



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