慟哭
「いいよ時間は大丈夫だから。いいの選ぼうよ」
ここまで来たなら付き合うよ。
里美はぱあっと明るい顔になって、わしっと私の手を握る。
「あんたがもし男だったら文句なしでゾッコンらぶらぶだから!」
…なんだそれ。ほめてんのか?
「…いいから、わかったから。イブの予定、確認しとこーよ。ヘマしたら大変でしょ」
「ありがと!男だったらチューしたいけど」
「もういい」
私達はそのあと、念入りにイブのアリバイ工作を練り上げ、カフェを後にした。
里美は先輩にブラックウォッチのシャツを買って。
お礼にと、パスタ屋の大人気のプリンをおごってくれた。
その分先輩のプレゼントにあてればいいのに、と私が言うと、
「うれしかった気持ちはすぐに伝えるものよ」
なんて妙にオトナなことを言ってた。
バスに乗り、他愛もない話をしながら帰って。
家に着いた時にはもう8時を回っていて、お母さんが心配そうに玄関でうろうろキョロキョロしていた。
「ただいま。ごめんね、遅くなって。里美におごってもらったよ、ほら」
プリンの箱を見て、お母さんも笑った。
「半分こじゃ物足りないわよ?」
なんて言いながら箱を開けると。
ちゃんと二個入ってた。
さすがです、里美さん。
これもアリバイ工作のひとつかな。
お母さんはプリンを見てふふん、と意味ありげに笑って、
「里美ちゃん、相変わらずお母さんのツボを心得てるわ」
入っていたのはプレーンとキャラメル味。
お母さんはキャラメル味のものには目がないのだ。
ここまでくると脱帽だよ、里美さん。
「里美ちゃんはラブラブでいいわねーあんたもがんばりなさいよ」
すべてがお見通しのお母さんにも脱帽した。