慟哭


 やっと自分の気持ちに気付いて、でも気付いた時にはすでに失恋て…



 間抜けもいいとこだ。



 だいたい私って、あの夏のあの日に小さな子供と一緒にいたんだから、あの時にお父さんなんだって思わなかったもんかな。



 …………



 なぜか思わなかった。



 若すぎる、というのももちろんあったけど。



 なぜだか、そうは思わなかったんだ。



 …あてにならない勘がホント邪魔すぎ。



 でも…気付いてしまうと、自分を掻きむしりたくなるほどの気持ちがどんどん溢れてくる。



 好き



 名前も知らない。



 歳も知らない。



 何にも知らない。



 知ってるのは、声と掴まれた手の熱さと、



 結婚していて、子供がいること。



 それでもおさえられないくらいのこの 好き を、



 どうしたらいいんだろう。



 って…いやいや、どうしたらって、忘れるしかない。



 気持ちを伝えることも出来ない相手なんだから。



 だいたい、私のことを覚えてるはずもない。



 あんな一瞬の出来事。



 話し掛けるつもりでいたの?私は。



 あの男の人にしたら、誰?ってかんじだ。



 忘れなきゃいけない。



 諦めるとかそんな生ぬるいことじゃダメ。



 だって子供までいるんだから。



 …じゃあ、もし結婚してるだけだったら?



 なんとか…なる?



 わけない。



 そんなこと考えちゃいけない。



 …でも、もし私がもっと早く産まれていたら?



 せめて想いを伝えることくらいはできただろうか…



 ダメだ



 たら、れば、のことなんて考えたところでなにも変わらない。



 悲しいのは事実。



 でもちゃんと受け止めなきゃいけない。



 けっこう泣いたし。



 こんなところでだけど。



 また泣いたっていいし。 



 …帰ろう




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