慟哭
私の手を引っ張ったのは、しんちゃんだった。
…なに?なんで?
びっくりして言葉も出ない。
「…おまえ……」
しんちゃんが難しい顔してる。
眉を寄せて睨むような目をした、こんなしんちゃんは今までみたことがない。
あんまり怒ってるから、なんかしたっけ…と思ってしまう。
いや、するわけないけども。
「…なに、しんちゃん、…どうし」
「なにかあったのか」
怒ったまま、たたみかけるように言い、私の顔をさらに近くで覗き込む。
ち、近っ…
「なにかって…、なんにも…てか、しんちゃんなんで」
「なんで泣いてんだ」
聞いてないし。
「し、しんちゃん、あのさ…」
「来い」
「はぁっ?」
まともに会話することもできないまま、なぜがかなり怒ってるしんちゃんに、手を掴まれ引っ張られてる私。
なんなの〜っ
私はうちへ入ろうと門に手をかけていたのに、ぐんぐん来た道を戻るしんちゃん。
うちからよその二軒をはさんだ西、隣の隣の隣がしんちゃん家。
住宅地だから、同じような一軒家が密集してる。
あっという間に連れて来られたしんちゃん家の前には、エンジンがかかったままの、しんちゃんの車。
「乗れ」
「えぇっ?」
言ったほぼ同時にすでに助手席に押し込まれてるし。
さっさと運転席に回って乗り込んだしんちゃんは、シートベルトをしながら、
「ベルトしろ」
…ちょっと待って。
拉致られる?!
「しんちゃん、あたし出掛けてらんないしっ!なんなの、なんで、どこ行くつもりっ?」
全く私の話しを聞こうとしないしんちゃんを必死で止める。
訳わかんないまま、連れてかれたくないし。
すでにハンドルを握って発車寸前のしんちゃんは、まだ怒った顔のまま、こっちを向いた。