慟哭
「なんで泣いてんのか言え」
顔の位置も表情もそのままで聞いてきた。
前を向いたまま、ハンドルに手をかけて。
エンジンがかかってるんだから、いつ動いたっておかしくない。
言わなかったら拉致られるのは間違いなさそう。
なんでしんちゃんにいわないといけないの?
しかもなんでそんなに怒ってんの?
てか、しんちゃんの車に乗るの初めてだな。
免許を取りに行ってることはおばさんから聞いてたけど、おばさんは「いつ乗る暇があるのかしらね〜あんなにバイトばっかりしてて」って言ってた。
それにこの車、おじさんのともおばさんのとも違う。ってことはしんちゃんの…?だね。
しんちゃんのことだから、自分で買ったんだろうな。
「おい、そろそろ答えろ。なんかお前、今頭ん中、別のことでいっぱいだろ」
!! バレたっ
「しんちゃんなんでそんなに怒ってんの…」
「俺が聞いてんだ。答えろ」
ドSっぷり炸裂だ、この俺様は…
なんかだんだんじわじわと頭にきた。
「しんちゃんって何様っ?なんにも怒られるようなことしてないし!いい加減帰らせてよっ」
…と勢い良く言いつつも、また怒られるんじゃないかと、ドキドキの私もどうだか。
でもしんちゃんは、こっちをちらっと見てから、ふー…っと深いため息をついて。
ハンドルから手を離し、サイドブレーキを引いた。
背もたれに深くもたれて、狭そうな運転席の足元に長い足を投げ出した。
「…悪かったよ。急に連れてきて」
さっきとは声のトーンが違う…
「おまえが泣くなんて…もう何年も見てないからな。ガキんときは俺がよく泣かしたけど」
タバコに火を点けながらしんちゃんはつぶやくように言う。
「大吾もおまえをよく泣かしたけど…おまえは大吾には食ってかかるのに、俺が泣かしたら泣かした俺に泣きついてきてたよな」
大吾(ダイゴ)は、しんちゃんの弟。